全国高等学校長協会家庭部会 理事長
埼玉県立不動岡高等学校長

武正 章

 日頃より全国高等学校長協会家庭部会の活動に御支援・御協力を賜り感謝申し上げます。
 本部会は、高等学校家庭科教育の振興を図ることを目的として昭和26年に発足いたしました。発足以来今日までの間、少子高齢化、グローバル化、ICT・AIなどの進歩、社会構造や生活様式、人々の価値観、親子関係等、生徒を取り巻く環境は大きく変わりました。 
 また、それら社会や産業構造等の変化に伴い、社会や企業が求める力も大きく変わっております。変化の激しい、予測の困難な社会において、一人一人が高い志を持ち、自立して生きるために必要な基盤を確実に育み、国の内外を問わずさまざまな分野で活躍し、社会に貢献する力を高等学校教育の中で育成することが求められております。時間軸の視点からこれからの社会を展望しつつ、時代を超えて価値ある不易と社会の変化に応じて柔軟に対応していく流行とを空間軸の視点から見極め、家庭科教育の在り方を検討していく本部会の役割は、非常に大きいと思っております。
 

○家庭科教育の意義の再確認
 家庭科には、共通教科「家庭」と専門教科「家庭」がありますが、共通教科においては「自立した生活者」としての資質を身に付けさせるため、衣・食・住に加え、保育や福祉、消費生活、環境問題等についての知識や技術、課題解決能力を高める指導をすることによって、さまざまな視点から生活の科学的理解と生活課題を解決する力の育成をしなくてはなりません。
 特に、食育や保育、福祉、環境の問題については、時代及び社会の要請としてそれらに関する指導の重要性は増す一方です。また、公職選挙法の改正によって選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、主権者教育の重要性が高まりましたが、近い将来においては、民法の改正による成人年齢の引き下げも視野に入れて、消費生活に関する指導、いわゆる消費者教育についても家庭科の果たす役割は大きくなると思われます。
 さらに、専門教科では、社会の変化に対応できる産業人材の育成が求められています。生産年齢人口の減少、AIの発達、日本の生活文化の継承などさまざまな課題に柔軟に対応できる指導の充実のため、産業界をはじめ、関係機関と連携しながら、専門教育に携わる教員に対する支援が必要であると考えます。
 こういった新しい時代に必要となる資質・能力を育成するためには、知識や技能の伝達だけに偏らず、学ぶことと社会とのつながりをより意識した教育を行い、実社会や実生活の中で活用しながら、自ら課題を発見し、その解決、さらに実践に生かしていけるようにすることが求められております。また、高等学校教育改革においては、主体的・対話的で深い学びとして「アクティブ・ラーニング」の視点が強調されておりますが、共通教科の特徴である「学校家庭クラブ」や「ホームプロジェクト」の活動はまさに「アクティブ・ラーニング」であり、生徒の思考力・判断力・表現力の向上にはたいへん有効であると考えます。どのように学ばせるのかと合わせ、どのように評価するのか、一層の工夫と充実が求められています。関係機関等とも連携しながら、「学校家庭クラブ」や「ホームプロジェクト」の一層の充実にも取り組んでいかなくてはならないと考えております。
 今年度も全国各地で、さまざまな大会が予定されております。8月に長崎県で「全国高等学校家庭クラブ研究発表大会」が、10月には秋田県で「全国産業教育フェア」が開催されます。これらの大会は、全国の高校生が、地域社会の人と人をつなぎ、さまざまな課題に対応した取組をしている生徒の発表の場でもあります。また、それらの活動に対する指導実践事例を学ぶ場であります。多くの先生方に足をお運びいただき、地域を動かすエンジンの役割をはたしている高校生の姿と指導に当たった先生方の貴重な指導事例を知る機会としてください。開かれた学校づくりや地域に根ざした学校経営と指導の工夫・改善のヒントにつながることも多くあると思います。
 

○家庭科教員の資質向上
 家庭科教育には、共通教科と専門教科の2本の柱があることが他の教科にない特徴となっております。近年、共通教科「家庭」では、「家庭基礎」2単位設置校が増え、少ない単位数のなかでどう指導を充実させるか、大きな課題となっております。家庭科教員の一人配置校が増加し、教科指導に係る校務、学年や学級指導に係る校務、その他の校務分掌や部活動指導、それに加えて家庭科に係る施設・設備の維持管理など、家庭科教員の負担と多忙化は増していると見受けられます。十分な教材研究と指導の工夫・改善に向けた校内教科研修も決して十分にできる状況にない学校も少なくないと思われます。一方では、家庭科教員には、専門教科と共通教科のどちらにも対応できる専門性と、社会の変化を柔軟に取り入れ生徒の実情に応じた指導力が求められています。
 また、平成27年12月に中央教育審議会の答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上」では、「教員は学校で育つ」の考え方の下、教員の学びを支援する環境整備を図るなど、早急な対策が必要とされています。各学校並びに都道府県教委などの取組にも期待しつつ、家庭科教員の資質向上に向けた役割も本部会の重要な責務であると思います。
 7月に福岡県で開催されます「全国高等学校家庭科実践研究会」は、福岡県の有する歴史・風土・文化などを取り込んだ内容となっており、魅力あるアラカルト研修も用意されております。8月に4日間にわたり実施されます「産業・情報技術等指導者養成研修」や10月に千葉県で開催されます「被服・服飾デザイン系校長会総会・研究協議会並びに学科主任研究協議会」、11月に石川県で開催されます「食物科・調理科校長会総会・研究協議会並びに学科主任研究協議会」は、まさに家庭科教員の授業力、技術力などの向上につながる内容となっております。本部会といたしましては、この研究協議会を家庭科教員及び学校を結ぶ場と考えております。ぜひ、これを機会にネットワークを築いていただき、お互いに支え合い、資質を高め合える場としていただきたく、多くの校長先生、学科主任等の御参加をお願いいたします。
 

○組織の円滑化
 本部会の運営は、全国の校長先生方の御理解と御協力なくしては、できないことであります。特に、各ブロック校長会や被服・服飾デザイン系高等学校長会や食物科・調理科高等学校長会・保育系高等学校長会などの小学科校長会、事務局との情報交換を密にして、協力体制をしっかり構築していきたいと考えています。「チーム かてい」の組織として、様々な課題解決に向け取り組んでまいります。本部会は、さまざまな分野の専門家である校長先生方で構成されております。それぞれの立場からいただいく声に、真摯に耳を傾けてまいりますので、忌憚のない御意見をくださいますようお願いいたします。
 今年度は、10月に愛媛県で「秋季研究協議会」が開催されます。この協議会は、新しい知見の紹介や日々実践している教育活動について研究発表や協議がなされ、研鑽の機会として重要な役割を果たしております。各都道府県に持ち帰っていただき、それぞれの学科の特色づくりや家庭科教育の充実・振興、学校経営などに役立てていただきたいと思います。
 

○家庭科教育の社会的評価を高める取組
 すでに御案内のとおり、去る5月16日に文部科学省が報道発表いたしました「高大接続システム改革の進捗状況について」では、それぞれの改革の具体像が見えてまいりました。「高校生のための学びの基礎診断(仮称)」では、公益財団法人全国高等学校家庭科教育振興会が実施しております被服製作・食物調理・保育の技術検定も、多面的な評価ツールの候補として挙げられております。検定の充実につきましては、財団法人の事業ではありますが、認定ツールとしての申請・審査に向けて準備を整えてまいりますが、ぜひ、各学校におきましても、その意義を御理解いただき、指導の充実の観点からも御活用いただきたいと考えます。
 そして、大きな教育改革の動きは、家庭科教育の充実を図り、社会的評価を高める好機ではないかと考えます。本部会には、専門教育に関する家庭科調査研究委員会、普通教育に関する家庭科調査研究委員会、技術検定調査研究委員会、進路調査研究委員会の4つの委員会が組織されています。これらの委員会は、家庭科における教育課題の改善や家庭科教育振興等の観点から調査・研究を進めています。これらの委員会の調査結果・研究成果や全国で家庭科を学ぶ生徒の真摯に活躍している姿などを、本部会のホームページやリーフレットなどでお知らせしておりますが、各種技術検定についても社会的認知度を高め、就職や進学するにあたり、取得した資格が適切に評価されるよう、社会的評価を高められるために働きかけていきます。
 また、家庭に関する学科等の卒業生の大学・短期大学・専門学校への入学者選抜や企業等への採用に関する要望についても引き続き行ってまいります。

 最後に、今年度開催されます大会や協議会の主管校となります校長先生方をはじめ、開催県の先生方には大変お世話になりますが、よろしくお願いいたします。家庭科教育のより一層の振興・発展のために、浅学菲才ではありますが、誠心誠意努めてまいりますので、今後とも本部会に対する御理解を重ねてお願い申し上げます。